小説1

カテゴリ : 
ブログ
執筆 : 
keian 2011-1-11 12:50
シンガポールの一月はおもしろいのかよくわからない。ただ、このスコールとヘイズのグレイしか感じられない。観光立国としてのシンガポールはホーカーズ売り込みが著しい。古いお付き合いの大島聡子女史は電子レンジを使っての料理の魔術師としてその世界では名が知られている。シンガポール餅はここで生まれた。ホーカーズにその名はなくても、固有名詞として既に独り歩きを始めている。レンジにかけたとろとろふわふわの餅をきなこと砂糖に合わせた中にちぎるだけではあるが、ヒットするともう名物である。
幸一はこういう料理は苦手である。しかし女将の桂子は大島聡子女史とあれば一度は作ってみないと不安であるようで、どれだけ引っ張り回されたかわからない。とろとろの餅なんてうまいと思えないのだが、とりあえずはつきあって探すことにした。
とうふ屋桂庵は岐阜の小さな料理屋である。松尾太郎とさい、そして妹のとくで長い間豆腐屋を営んできて、その娘である桂子がどうしても豆腐の名を残したいと始めた。桂子は豆腐を通して料理が大好き。それだけで店を続けている。京料理に一代を注いだ糸居の主人からすれば、金の回りが考えられないほどの暇な店である。年中無休だけが取り柄である。
ホームページを起こし、ブログを書き続ける中でどうしても小説を書くのだと言い出したが、灰色の空同様に不安だけがたちこめている。シンガポール餅はみつからなかった。
いつものことや。肝心のものがみつからなくて、寛容なものをヒットさせること、横着で店を続けてきたのにすぎない。これが面白くて、ついてきたのである。
とろとろの餅のイメージは、豆腐や油揚げの間にはさむ魚のすりみに変わった。
 「金のないことは素晴らしいことや」と桂子はつぶやきながら、60セントで3つの豆腐良を買った。
 
〒500-8034 岐阜県岐阜市本町 5-23
TEL : (058)-262-4015
FAX : (058)-262-4015
URL : http://www.k-an.jp
とうふ屋桂庵のご案内
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女将の著書
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